
Artist's commentary
重巡リ級、別個体との遭遇(研究番号リ-50990)
私の所属している研究班はリ級を調査対象としている。リ級の鹵獲数は深海棲艦のなかでも多い方であるため研究サンプルは足りているが、刺激への反応が過敏だったり我々に非協力的な態度が目立つため、研究の進捗という点では総じて進みが悪い。そこで、何らかの打開になればという発想から、個体同士を接触させず相互認識を避けてきたこれまでのやり方を見直し、鹵獲時期の異なる個体をあえて対面させてみるという新しい実験項目が立案された。その対象に、私の担当しているリ級が抜擢されたのだ。
私が担当するリ級(現リ級)を連れてやってきたのは、1ヶ月以上前に鹵獲された別個体の実験室だ。肉体の反応が頭打ちになりつつあったこの個体(旧リ級)は、これ以上強い刺激を与えても損傷が増えるばかりか下手をすれば大破してしまうのではという危惧もあり、研究が暗礁に乗り上げていたところだった。今日の実験は電極を挿入して強力な電圧をかけるというものだったが、目の前で身体を跳ね回らせる旧リ級の様子を目の当たりにした現リ級は、同じ電流とはいえ自らが体験した実験とはかけ離れたその威力を、怖がりながらもしっかりと感じ取っている様子だった。
実験終了後、気絶に近い状態で横たわった旧リ級に、震える現リ級を近づかせる。そしてその肌に指先で触れさせた瞬間、ふたりの間にまさに雷のようなものが走り、旧リ級と同じように現リ級は気を失ってしまった。生体反応は一応正常だが、現リ級はそのまま意識を取り戻すことなく一日を終えた。
――以上が、昨日起きたリ級における全てである。そして今しがた、現リ級が意識を取り戻したという連絡が届いた。あのとき、それぞれの個体…特に私の担当しているリ級に何が起きたのか。それを調べる私の新たな研究が始まる。
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