
Artist's commentary
わんどろ+α
icoiさん【user/1230325 »】と通行止めで絵ワンドロ+文ワンドロの120分合作させていただきました!
無意識で未来設定にしてましたすみません。
ワンドロではほぼ線画状態までしか描けなかったのですが、せっかくなのでちょこっとだけグレー塗りました。
このイラストを元に書いていただいた素敵な小説はこちら!
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【誰が為に君は笑む】
就寝時には仲良く二枚並べられていたはずの毛布の片割れが、くしゃくしゃの無残な姿で蹴り飛ばされているのはいつものことだが。
うーんむにゃむにゃ、などと冗談みたいな寝言を漏らしながら爆睡している少女に思い切り全身を拘束されているのに気が付いて――学園都市第一位の序列を掲げる白い髪の青年は、晴れやかな空模様に似つかわしくない腐った顔つきのままで目を開いた。
「……暑っちィから薄い毛布に切り替えたっつー話じゃなかったンかよ……」
横向きで惰眠を貪っていた一方通行の背中にべったりと貼り付いている華奢な体は、無防備そうな薄着の見た目そのままに、少女らしい柔肌の感触を直接的に伝えてくる。
日に日に暖かさを増していく初夏の日和に――もしかすると世間一般の青年にとってはたいへん好ましく魅力的に映るのかもしれない、そんな状況に置かれている一人の男の反応はというと――ただただ子供体温の暑苦しさに辟易として眉をしかめるばかりであった。
「オイ、アホ面離れろ。夢ン中でも変わらず能天気そォなのは何よりだが、俺は寝苦しくて仕方がねェ」
「んみゅ……ってミシャカ、は……、んー」
時刻はもう間もなく昼にもなろうかという頃。今更『寝苦しい』も何も無いだろう、と真っ当な突っ込みを入れてくれるような野暮ったい常識などは、生憎とこの部屋には立ち入り禁止なのだった。
脚の先まで蛇かフェレットのようにがっちりと巻き付かれ、寝返りを打つこともままならない雁字搦めの怪物は、顔をわずかに動かしてちらりと視線の先を背後に移す。
明るい茶色の小さな頭は青年のうなじから肩にかけて擦り寄せられ、完全に油断し切った力の抜け具合を見せ付けている。ふっくらとした輪郭の頬は桃色に火照っており、かすかに開いた柔らかそうな唇からは今なお甘い寝息がこぼれていた。伏せられた長い睫毛が象るアイラインが、まるで笑っているかのように緩やかなカーブを描く、その表情。
眠ってる時まで笑ってンのかよオマエ――と、呆れ混じりの苦笑。
それが自身の内側から自然と生み出された感情表現の吐息であると、寝起きの青年が自覚するまでには、ほんの数秒ほどの時間を要した。
(……誰に向けての感情だっつーンだ、どいつもこいつも甘ったりィ面しやがって)
スヤスヤと眠る少女の顔には、表情筋や肌の細胞ひとつひとつに至るまで――底抜けの笑顔が宿っている。
よだれでもこぼしそうに緩んだ唇の動きに、わずかに目を奪われる。喜怒哀楽すべてを歪んだ表情に捻じ曲げてしまうような怪物のしかめっ面に、あれだけ散々に拒絶されておきながら――何年経っても少女の笑顔は絶えなかったし、彼女はいつまでも彼の傍らにあり続けた。
まるで、彼の分まで笑ってやろうとでも言わんばかりに。
『あなたの笑った顔が見たいなあ、ってミサカはミサカは――』
うるせェンだよ、と、遠い記憶の中ではにかむ小さな少女の声にそっと応えながら手を伸ばし。
ほのかに甘く色付いたその唇を――青年は白く細い指先で、力強くむぎゅっと摘んだ。
「んんっ、むぐぅううう……! しょ、しょこは優しくキシュするところでひょ、ってミヒャカはミヒャカは起き抜け早々に注文をつけてみるんだけど……っ!!」
「狸寝入りで出方を伺うのも大概にしとけよこのマセガキがよォ、何度目だコラ」
「視線を感じて途中で起きたんだもん仕方ないじゃない!! ってミサカはミサほっぺ摘むのもやめひぇええええ!!」
照れ隠しのように顔を赤くして悶絶する少女の両腕からようやく逃れた青年は、気だるく身を起こして、壁に掛けてある杖に手を伸ばす。
背後からの可愛らしい抗議の声を無視しながらも――誰の目にも触れないような死角で、仏頂面の青年は確かに一瞬だけ、口元にうっすらと笑みを浮かべていたのだった。
END