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Artist's commentary
「屋上は年中無休」 高槻やよい
はしゃぐ子供たちの声がかしましい。特設ステージは早くも設営スタッフによってバラされている。動物や車を模したコイン式の乗り物や、猫の額ほどの英国風ガーデン、あとはわずかに売店が並んでいる。駅前デパートの屋上だ。たまの仕事といえばこんな場所でのミニライブ。もう少しやよいにはいい目を見させてやりたいのだが、努力が必ずしも報われるわけではない、運否天賦も重要な業界だ。めげずにやっていくしかない。むしろ彼女のほうがこういう逆境では力強く、私は一喜一憂を表に出さぬようにするのに精一杯だが、やよいはといえば輝くような笑顔で今日のライブを大きく盛り上げていた。
資質は充分なのだ。全力でライブを終えたやよいの所へ、両手に抱えきれないくらい売店のジャンクフードを差し入れする。私に気づいたその瞬間の目は標的を捉えたハンターのそれであったが、遠慮することなくこれは全てやよいのものである、と告げてお店を開くように広げてやる。ホットドッグ、フランクフルト、たこ焼き、ソフトクリームetc、栄養のバランスもへったくれもないが、やよいは両手にそれ等をかかげ持って交互に口に運んでいる。繰り返しになるが、資質は充分だ。このすばらしい笑顔を、生かすも殺すも私の手腕ひとつである。幸せの吐息をもらすやよいを横目に、私は心中で気合の拳を握った。やよいがソフトクリームを一口くれた。
抜けるような青空が今日はやけに高かった。 ―了―