
Artist's commentary
庭師の涙
春の異変が終り、人間たちは白玉楼を去った。
その数日後、幽々子に呼び出された。
きっとお庭番としての未熟さを延々指摘されるんだろうな。
そう思って行ってみると。縁側に腰掛けてお茶を飲んでいる幽々子がいた。
とても怒られるような気配ではなかった。
促されるまま隣に座り、主の桜色の瞳を見つめる。それはとても穏やかな顔で。
お互い何も言わずに数分がたち、幽々子が一言だけつぶやいた。
「妖夢。ありがとう。」
にこりと穏やかな笑み。たった一言のお礼の言葉。
途端に、心の中のいろんな壁が崩壊した。両目からとめどなく涙があふれてきた。
自分が物心ついてからのいろんな思い出が心のなかを駆け巡った。じいちゃんに弟子入りして、初めて真剣を手にしたときの怖さ。辛かった修行の日々。幽々子さまとじいちゃん。家族三人で廻るお花見。草餅が美味しくてのどにつまらせたこと。突然の免許皆伝。じいちゃんの失踪。それからの日々。何を目標にしたらいいかわからず迷いさまよい。やっと料理くらいはまともにできるようになって。最近庭の手入れも幽々子様が「まあよし」と行ってくれるようになった。そして突然の人間の襲来。幽々子を守れなかった。それどころか情けをかけられた。もう全部やめたくなることだってあった。けど。
心のなかがうずまいて、いっぱいになって。いろんな感情が両の目から涙として流れでて止まらなかった。とても言葉にできない。想いがいっぱいだった。
たった一言で。ここに居て、この身で生まれて、よかったとおもった。
この人が主で、よかったとおもった。
夏が近づいた白玉楼。少女はしばらくの間、声を出して泣き続けていた。
※幻想郷大運動会「春の出会い」編 pixiv #10153504 » 直後のイメージイラストです。
本当はやる予定でしたが、いろんな都合でぼつになったカット。正直、今だからまともに描けたかも。
※1.2010.9.2 酷い誤植を修正しました。