
Artist's commentary
難しい話
「ほら、飲めよ。ココア好きだろ。」
「あ、はい…。ありがとリラ、拓也さん。」
突然渡された温かい缶を慌てて受け取ると、暖を取るように両手で包み込んだ。
「今の時期でも、海辺はヒエヒエだぜ!風邪ひいちゃ大変だからな!」
彼はLAB-K(ラボ-ケー)のメンバーの中でも面倒見がよく、リランが拾われて来てからというもの、彼女の世話役を買ってでていた。
「あの、皆さんは…?」
いつものように目を合わせられず、茜に染まる地平線を眺めながらココアに口をつける。
「おう!気にする必要ないぜ!全員しっかり仕事こなしてるからな!今のところは民間人にもほとんど被害は無いぜ!ただ、このままじゃ狂っちまった奴らを収容する場所が足りなくなっちまうから、早いとこケリをつけねぇとな!」
「ごめんなさい。」
リランはズランと戦った日から、ずっとこんな感じだ。拓也はまた謝らせてしまったと頭を掻きながら話を続ける。
「良(よ)いぜ!元々こういう自体に対処するのが俺たちだしな!お前は頑張ったんだからさ、今はゆっくり休んでればいいんだぜ」
拓也は優しくしてくれる、ラボの仲間はみんなそうだ。優しくされるたびにリランの心は重くなる。
あの日自分がズランに負けて取り逃がしたから、今世界は大変な事になっている。それなのに、メカニカルリランを失ったリランはラボにとって何の役にも立たない。
存在価値の無い、抜け殻だった。
「…拓也さん。私。」
「私、ズランに言われた事、ずっと考えてるリラ。私と、ズランは存在するはずじゃなかった、って。家族もいない。産まれた意味の無い存在って…。それでもメカニカルリランがあったから、私はラボに…みんなと居られたリラ。でも今は……」
「難しい話に聞こえるかもしれないけどさあ。自分から産めと頼んで産まれた人間はいないぜ!」
「だからみんな自分で見つけようとすんだよな、産まれた意味とか、生きる理由とか。だからそういうのって周りとか世界からなんて思われたってしょーがねーじゃん!自分で見つけるんだからさ!」
「周りに言われるんじゃなくて、自分で、見つける…。」
「俺も、まぁここまで色々あったけどさあ、色んな人に会って、色んな体験して、生きてて良かったって思ってるぜ!生きてきたからこそ、こうやってリランちゃんにも会えたしな!」
拓也は夕日に照らされたシワシワの顔をニッコリ笑って見せた。
照りつける夕日より眩しい笑顔に、リランはつられて顔を上げた。
「私…見つけたい。産まれた意味とか、生きる理由とか。拓也さんみたいに色んなこと。だから、だからズランにも教えたい!拓也さんの教えてくれたこと、私の気持ち、全部ズランに伝えたい!それでズランが最後に選ぶ答えを、私知りたい!」
「お~いい格好だぜぇ!やっと笑ったな!そしたらその気持ち、他のみんなにも教えてやんねぇとなあ。暗くなる前にさっさと帰るぜぇ?」
「うっす!」
「俺のマネかよぉ!?笑っちゃうぜ!」
2人は笑顔のまま街並みに向かって歩き出す。
少し冷めたココアが、それでも温かく胸に染みた。