
Artist's commentary
押しかけブラコン妹
朝、どこか聞き覚えのある声が、耳の奥を優しく撫でるように響いた。
うっすらとした意識の中、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐったのを覚えている。
いつもなら即座に飛び起きたであろうが、昨晩は随分と夜更かしをしてしまったし、何より、今日は久しぶりの休日だったということもある。
その声を塞ぐように、布団を手繰り寄せ頭深くまでかぶると、そのまま寝入ることに決めてしまったのだ。
「おにぃ…っ、ねえ、おにぃったら……」
「……もう、知らないからね」
顔中に、柔らかいものが何度も触れる感覚を覚え、僕は布団を跳ね除け飛び起きた。
部屋の明るさからみて、既に昼頃であることがうかがえる。
なにかが触れた場所を指で触れると、ところどころほのかに濡れてる感触があった。
訳も分からず、ぼやける目をこすり、枕元にあったメガネをかけると、そこには見覚えのある女の子が立っていた。
胸元で腕を組み、こちらをじっと見つめている。
ふと部屋の隅を見てみると、そこには淡いピンク色の大きなスーツケースが、まるでそこが自分の定位置だといわんばかりにどっしりと構えていた。
「……リンリ、お前……」
実家にいる親に問いただす必要がある。
なぜこいつが、ここにいるのかを。