
Artist's commentary
秋を届けに行こう
秋は果物がおいしい季節ですね。秋姉妹も、自分たちが育てたり、山で採った果物を人里に売りに来てそうですね。トラクターに新鮮な果物をたっぷり載せて、ごとごとごとごと運んでくる光景が目に浮かびます。甘い香りに誘われた妖怪たちを、一緒に乗せて行ったり、なんてこともありそうです。
果物といえば、皆さんはブドウは好きですか?秋の果物では、私はブドウが一番好きです。旬のこの時期にはブドウをよく買ってくるのですが、選ぶのはもっぱらスチューベンやナイアガラなどの昔ながらの品種ばかりです。今主流の品種といえば、巨峰やピオーネやシャインマスカットなど、粒が大きくて甘いブドウですよね。
なぜわざわざ主流じゃないブドウを買うのか?もちろん、値段が安いというのもありますが、こういった古い種類のブドウは現代的に洗練されきっていない分、味や香りに一度食べたら忘れられないような特徴があって、私はそこがたまらなく好きなんです。例えば、スチューベンは「蜂蜜のような」と例えられる濃厚でとろりとした甘みが持ち味です。粒は小さいし、種はあるしで食べにくいですが、この甘さは他の品種にはありません。それから、ナイアガラは他に例えようのないナイアガラの香りがあり、その一点だけでもナイアガラを買う価値があると思います。
ナイアガラ。ジュースやワインの材料としては有名ですが、そのまま食べるという人はあまり聞きません。だから、その特徴的な香りを知らない方も多いと思います。基本的にはマスカットの香りなのですが、他の品種にはない、野性味あふれるような、たいへん強い白ブドウの匂いがします。
昔、安いからという理由で買ってきた箱入り(10房ほど入って600円くらいでした)のナイアガラを玄関に放置して出かけ、夕方帰ってきたときの衝撃は忘れません。ドアを開けた瞬間、夏の終わりの夕暮れにピッタリと寄り添うような、秋の山を思わせる爽やかなブドウの香りに迎えられたのです…。どうでしょう。想像しただけで、なんだかワクワクしませんか?
それ以来、9月に入りナイアガラが出回る季節になると、箱で買い求め、玄関に置いて香りを楽しむ習慣ができました。とはいっても店で扱っている時期がほんの2週間ほどですし、そこまで日持ちする種類ではないので、一年のうちに一度しかできません(一週間ほどひたすら腐る前にナイアガラを食べまくる生活を強いられるのは、なかなかつらいです)。
今はナイアガラが手に入る地域に住んでいないので、この習慣はやっていませんが、いつか引っ越したらまたやってみたいなあ、と思います。